リサーチを上手く取り入れ、本質的な問いを追究する。

ユーザーエクスペリエンスをデザインに取り入れる場合、デプスインタビューやフィールドワークといったリサーチを行う。これは元々エスノグラフィなどの手法の中で行われていたこともあり、ユーザーエクスペリエンスのアプローチでも当たり前のようにユーザーへのインタビューなどを実施している。しかし、なぜリサーチを行う必要があるのか、またデザインや最終成果物へのインプットとしてどう扱っていくかということをプロジェクト設計段階で入念に検討しておく必要がある。

様々な文脈におけるユーザーの思考や価値観を事実として再認識する。

ディレクターやデザイナーが、なぜリサーチをする必要があるのかということを考えると、まずユーザーが生活する中での様々な文脈や、その文脈のなかで起こるユーザーの思考や心理状態といった「事実」を理解することが重要だと考えている。物事は、きっかけ・心理変化・アクションの連続だと思うが、人が普段どのようなことに価値観を抱き、どんなきっかけからどんな行動を起こしたかを一つひとつ丁寧に分析していくことがユーザーエクスペリエンスには重要だと思う。

また、ユーザーリサーチを分析すると、ほとんど知っていたことが結果として現れるケースがある。これはリサーチを失敗したわけではないと思っている。あらゆる「事実」を言語化し、可視化していった結果、知っていたことも含め、改めてすべての行動原理を洗い出し、整理することが重要だと考えているからだ。さらに知り得ない情報を得たいのであれば、リサーチから得られた結果を元に更なる仮説形成を行い、それをもとに追加調査を行っていく必要があると思う。

アウトプットのためのインプット。

リサーチを終え、その結果を分析し、それをもとにインサイトやメンタルモデルを検討するが、手段が先行してしまうケースがある。

自分も過去の失敗で、そのような状態に陥ってしまったことがあるが、プロジェクト設計をする上で、クライアントのリサーチをしてほしいというオーダーにばかり意識を向けてしまうと、なぜリサーチを実施する必要があるのか、そのリサーチ結果は最終成果物のために、どのような価値あるインプットになるのかということが曖昧になってしまう。

リサーチ結果をより有効活用するためには、プロジェクト全体の中における位置づけを明確にし、すべてのステップにおけるアウトプットとインプットとの繋がりを考える必要がある。

リサーチャーではなく、デザインリサーチャーであること。

ディレクターやデザイナーが、なぜデザインをするかという問いに対して、もう一つ重要なポイントがある。それは、リサーチャー以外のメンバーがリサーチに関与することで、文脈を考慮した最終成果物をアウトプットするということである。

リサーチャーは、「インタビューする」ということは専門家かもしれないが、例えば教育や金融、美容については専門家ではない。

また、リサーチ結果は基本的に資料としてまとめてしまうため、リサーチ中で得られた様々な文脈的な情報が削ぎ落とされた状態になってしまう。報告側がある程度意識すべきかもしれないが、それには限界がある。

そのようなことを踏まえると、プロジェクトに関わるすべてのメンバーがユーザーインタビューやフィールドワークなどの調査に関わることが重要であると考える。リサーチの細かい文脈を含めて、すべての内容を把握しているからこそ最終成果物の進むべき本質的な方向性を見い出すことができる。また、リサーチャー・クライアント・ディレクター・デザイナー・エンジニアなどのメンバーを様々な専門家と捉えると、それぞれがユーザーインタビューで知るべきポイントを探ることができ、考察の視点も幅が広がるので、より本質的な問いに向き合うことができるようになるように思う。

リサーチは重要だが、リサーチャーであることに固執してはならないと思う。リサーチは、あくまでアプローチの一つだということを忘れてはいけない。